喪失直後、心はショック状態となる。
大切な方を失くした直後、あまりの出来事に私たちの心は砕け、傷つき、心が不安定になります。
それは、あなたがとっても辛く、苦しく、悲しみを抱えているのと同様に、あなたの心もとっても辛く、苦しく、悲しみを抱えているからです。
喪失というとても大きな出来事に、心に急激に負荷が掛かり、その負荷に心が耐えられずに、ショック状態を起こす事があります。
いわゆる急性ストレス障害と呼ばれる状態です。
急性ストレス障害とは、命の危険にさらされるような出来事を体験したり、大きな天災に見舞われたり、生死にかかわるようなとても大きな出来事に直面した時に起こるストレス障害です。
このストレス障害は、その出来事から2日~4週間の間続き、以下のような3つの症状が出るのが特徴です。
(喪失体験をした方が必ずなるものではなく、似たような状態として近い為、ご紹介させて頂いています。)
1:追体験(フラッシュバック)
死に直面するような出来事や、心に傷を負った原因となるような出来事を繰り返し思い出し、夢に出てきたり、ふとした瞬間に思い出します。
繰り返し、その出来事を思い出すのは心がおかしくなったからではありません。
心が繰り返し思い出させるのは、もうその出来事を繰り返してほしくないからなのです。
心が乗り越えて欲しくて、繰り返しその場面をあなたに見せているのです。
「そんな余計なこと!」とあなたは思うかもしれませんが、心は不器用なので、そうすることであなたに役立とうとしているのです。
その場面をあなたに見せることで、もう繰り返さないように学んで欲しいのです。
その為、もし時期が来たら、心にこう伝えてあげて下さい。
「もう私は十分に学んだし、もう繰り返さないから大丈夫だよ。教えてくれてありがとう。私は、もうあの時からずいぶん成長したんだ。だから、もうあんなに辛い思いはしないし、あなたにもさせないよ。もう大丈夫。」って。
2:回避
そのトラウマの原因となるような出来事を避けるようになります。
例えば、特定の場所を避ける、特定の会話を避けるようになるなどして、思い出さないようにします。
また、感情が鈍麻することもあります。
これは、ある種の防衛反応ですから自然な反応なのです。
だから、もしあなたの身近な人がそういった反応(回避反応)をしている場合、優しく見守ってあげて下さい。
そして、もしあなた自身がそのような反応をしたとしても、どうか自分を責めないで上げて下さい。
それだけの大きな出来事があったのですから、避けたくなるのも当然です。
「死」という大きなテーマと真っ向から向き合うには、時間やエネルギーがいります。
どうかその時が来るまで、丁寧に時間をかけて下さい。
また、この回避反応には、感情が鈍くなったりすることも含まれますから、
・気持が出ない
・涙が出ない
としても、自分を責めないで上げて下さい。
感情が出ないのは、涙がでないのは、あまりにも大きなが出来事があったから、それ以上の気持ちを感じないように心があなたを守ってくれているからです。
気持ちというバケツが溢れる直前なのです。
悲しみや怒りや苦しみや、その他いろいろな感情をこれ以上感じてしまうと、あなたの心が壊れてしまうのです。
そうならないように、心があなたを守る為に気持ちを感じなくしてくれているのです。
あなたが、また一歩、あなたのペースで歩めるように、気持ちを休めてくれているのです。
だから、気持を感じなくても、涙が出なくてもあなたは酷い人間ではないし、心が壊れているわけでもないのです。
逆に、あなたの心が今もあなたを守ってくれているのです。
気持ちが顔を出すまで、少し時間がかかるかもしれませんし、そんな遠い未来ではないかもしれません。
いずれにせよ、その時が来るまでゆっくりと今は心を休めて下さい。
3:過覚醒
トラウマ体験は過ぎたのにも関わらず、心が緊張感を保っており、もうそのような体験(トラウマ体験)を繰り返さないようにする為に、絶えず周りの状況に気を張り巡らせ、危険が起きないように注意している状態です。
こういった状態が故に、不眠になることもあります。
心が緊張を保っている状態では、ピリピリしていて、イライラしやすかったりすることもありますが、緊張状態でいるということは、すぐに行動が出来る状態とも言えます。
トラウマ体験が”また”起きた時に、すぐに行動がとれるように、対処ができるように体が常に準備している状態なのです。
その為、常に何かをしていないと落ち着かなかったりしますから、仕事へ没頭出来たり、何か別のことに打ち込んだりすることで、喪失という体験から離れる事が出来ます。
特に男性は、そうですが仕事や守るものなど、何か目の前にあるとそれに向かってその緊張状態のエネルギーを行動へとつなげる事が出来ます。
仕事でも、掃除でも、行動している内は、その体験を考えなくてすみますから、この過覚醒の状態もとても大切な状態なのです。
「喪失を体験しているのに、仕事に没頭したり、掃除や別のことに集中している。目を背けている。」
と考える方がいますが、そうではないのです。
「そうしていないと、心が落ち着かないからそうしている。」だけなのです。
そして、そうした時期も乗り越える為には必要なことなのです。
また、この時期はイライラしたり、急に不安になったりと気持ちが落ち着かなくなりますから、もし身近な方でそういった方がいたら、温かい目で見守ってあげて下さい。
急に起きた、大きすぎる体験に心が対処しようと必死なのですから。
一番のショックは、あの人が目の前にいないこと。
これまでご説明した通り、このショック状態は、心が大きすぎる出来事から立ち直ろうとして起きているのです。
その為、フラッシュバックが起こったり、涙が出たり、イライラしたり、不安になったり、気持を感じなくなったりと、そういったことを繰り返しますが、それはすべて心があなたを立ち直らせようとして必死で動いているからなのです。
そして、もっとも大きなショックは、大切な人がもうあなたの身近にいないことです。
触れ合おうにも、「おはよう」と言葉を掛けようにも、もうそこにいないことです。
パートナーであれば、二人で一人。
あの人がいつもいるという安心感が心の中で育まれ、「あの人といる私」というセルフイメージが心の中で作られ、それが心の中で安心感を生み、繋がりや愛を常に感じることができました。
でも、この世を去ってしまった今、「あの人といる私」というセルフイメージは崩れ、それまで感じていた安心感や繋がり、愛を感じる事が出来なくなってしまって、「私という存在」がぐらついてしまうほどのショックを受けたこと。
これがとっても苦しく、切なく悲しいのです。
もういくら考えても、どうしようとも、そのつながりを肌で感じることは出来ないのですから…。
寂しいのは、繋がりを求めているから。
大切な人を亡くすということは、私という存在がぐらついてしまうほどの出来事ということは、先ほどお話をさせて頂きました。
大切な人を亡くすというのは、それ程、いやそれ以上に大きく、私たちの心に深い悲しみをもたらします。
そして、その深い悲しみと共に私たちの心の中に湧き上がってくるのは、「寂しさ」です。
この寂しさは、故人とのつながりを求める気持ちです。
心の中では、亡くなったとわかっているけれど、心が不安定になっていますから、心があなたを安心させようとして、故人とのつながりを思い出させてくれようとしているのです。
それは、その繋がりがなくなる以前は、繋がりを感じて安心していたからです。
だから、度々そのつながりを思い出させてくれようとして、寂しさを感じさせているのです。
寂しさは、故人との繋がりが心の中にあるからこそ感じるものなのです。
そして、その寂しさはあなたの心の中にまだ故人とのつながりがあることも教えてくれています。
身体的な繋がりは失ってしまったけれど、精神的な繋がりはまだ心の中にあると、その寂しさは教えてくれているのです。
ですから、どうかその寂しさを丁寧に感じてあげて下さい。
あなたの中に残っている繋がりを丁寧に感じてあげて下さい。
きっとあなたが寂しさを感じる時、大切なあの人も寂しさを感じているでしょうから。
一杯寂しがってあげて下さい。
とはいえ、寂しさはどうしようもない時もあります。
そんな時は、自分の両手で自分を抱きしめて、よく昔両親にされたように、ぽんぽんと、ゆっくり自分をその両手でそっと一定のリズムで叩いてあげて下さい。
きっと落ち着きますよ。
喪失の気持ちを理解する為に。
否認
喪失という大きな体験は、信じがたく受け入れがたいものです。そして、そのショックの大きさから受け入れる事が出来ないことがあります。この状態が一般的に「否認」と呼ばれています。詳しくはこちら。
怒り
故人や他者、自分に対して怒りが湧く事があります。怒りの感情は、今の状態を何とか解消しようとして湧く気持ちです。詳しくはこちら。
抑うつ
いくら頑張っても、悲しんでも、怒っても、帰ってこないんだと現実に直面し、受け入れ始めた時、その辛さから抑うつ状態になる事があります。詳しくはこちら。